2003/3月号

 今回は陶磁器に続いて漆器について調べてみた。陶磁器の世界も奥深いものがあるが、漆器も幅広く、由緒ある世界である。
 そば食に漆器も風情のあるもので、垣間見るのも価値観がある。
 そば食の時どんな漆器があるのだろうか。わんこそばの椀、せいろの乗せ台、猪口、一菜の椀、薬味の皿、そば湯の桶等であろう。時代は新しい材質のものが多く出回り、ABC樹脂にウレタン塗料のもの、天然木加工品(木の粉をフェノール系の樹脂で固めたもの)等、本筋と違うものがある。
そんなことで本物の漆器で食することはかなり少なくなっていることも確かである。筆者の家でも漆物を使うことは正月等のハレの日にしか利用しないが会津塗の屠蘇盆と盃、お節の重箱、輪島塗の祝膳、若狭塗の箸、会津の雑煮椀と揃える。漆器の手入れは大変で使用後はぬるま湯で丁寧に洗い、乾いた布巾できちんと拭くことが大事である。
 しかし、漆器の素晴らしさがある。
 東京の有名な蕎麦店で“蕎麦懐石”料理を食べたことがあるが、正直なところどんな器か浅学の身ではよく判らなかった。でもきっと安いものを使っていたと思う。
 この稿を書くに当たり、図書館にて数多くの漆器の本を拝借に及んだ。
 口絵の写真から、中の頁の数々の漆器の写真を眺めてみると、漆器は豪華絢爛でもあり、優雅であり、質素であり、落書きがあって、そして静かである。良質の木曽桧を使った丈夫な曲物の木曽漆器蕎麦料理セット等はなんともいえぬ姿をしている。

 漆器について整理してみよう

  ●漆器(しっき)・・・漆塗の器物【広辞苑】

  ●英語でJapanise or Japan,Luquer Ware
   ※JAPANとは日本の漆器類の品質が他の国のそれよりも素晴らしいため「japan」と呼ばれる
    ようになった。


  ●漆(うるし)・・・うるし科の落葉喬木。中央アジア原産。高さ3米以上、雌雄異株、果実から蝋を
   とる。樹皮を傷つけて生漆をとる(十本の樹から年間200cc位<6〜9月>)
   漆汁にはウルシオールとおいう成分があり、これが漆の塗料の基。


  ●漆の生産の国・・・中国(中国西南四川省方面)→日本で使われる90%、日本(主たる産地、
   岩手(二戸郡)70%・茨城・新潟、ネパール、ミャンマー等がある。朝鮮(歴史的に高麗、李朝時代
   に遡る。)
   漆はネパール、チベットを西の基点とし東端を日本まで延ばす横長の三角形で地図上に示される
   照葉樹林帯に繁茂する樹木であり、そこが主たる産地である。


  ●漆器の木地材料・・・桧、欅、トチ、ブナ、カツラ

  ●漆器の歴史・・・中国、長江加工で世界最古(7000年前)の朱漆塗り椀が出土した。その保存性
   の高さが驚き。春秋・戦国時代(2200〜2800年前)楚王の墓から漆塗りの主流な器が出土。
   この様に南方の揚子江の流域に漆文化が栄えた。それが時代と共に高麗や日本に精巧な技術
   が伝わってくることになる。


  ●日本・・・縄文時代(前期)5000年前の出土品がある。福井−鳥浜貝塚、青森の三内丸山遺跡、
  日本の伝世品として世界最古の作品は法隆寺の玉虫厨子がある。これは大陸の漆工技術の影響
  が大きい。
  奈良時代は(黒漆が主流で)正倉院の宝物の中に数多くの漆加工品がある。この時代、漆工芸の
  基礎が出来る。
  平安時代→病草子という絵巻物に黒漆の食器が描いてあり、庶民が使っていたと思われる。
  鎌倉時代→遺跡からお椀や皿の類が大量に出土しており、貴族のみならず下級武士までが使って
  いた。
  室町時代→やはり絵巻物等に折敷や懸盤(食器の載せる台)にある食器は塗物である。以上から
  推測すると飯椀、汁椀は平安後期から近世にかけて塗物が主流であったと思われる。
  江戸時代→各藩が漆工芸を保護奨励する。豊臣秀吉が全国統一の際、和歌山の根来寺兵火で
  攻めたとき、鎌倉時代から僧達が各種の食器を作っていたが、難を逃れて全国各地へ散らばって
  技法を伝えたともいわれ各地で大きく発展する。
  根来塗は漆器の発祥で各地で又別の技法が加わり、名産となっていった。
  紀州漆器、輪島塗が代表的な継承地。


  ●江戸漆器・・・徳川家康が江戸開府の際、大勢の漆工を連れて来たことが始まりという。
  ●会津塗・・・蒲生氏邸が前領地の近くから木地師や塗師を呼び寄せたことに始まるという。
  ●高岡漆器・・・加賀百万石の殿様、前田公が保護育成させた。
            その他に有名なのが『春慶塗』である。

  ●春慶塗・・・室町後期(応永年1394〜1428)の頃、和泉の国、堺の塗工 春慶が始めたのが
   その名の由来で、飛騨春慶(淡褐色)、能代春慶(淡黄色)、木曽漆器がその流れを汲んでいる。
   透明度の高い透漆(すきうるし)の艶や気品のある美しさは何とも云えぬ気品がある。
   塗器加工は木地も大切だが、塗装も大変である。手間ひまたっぷり数十工程もある。

↓↓↓↓↓東京美術出版『うるし塗りの見わけ方』より↓↓↓↓↓

 【漆器作りの主な工程】・・・輪島塗の場合

 

木地作り
こくそ彫・こくそ養い
 木地の傷やはぎ目などに生漆と木粉を混ぜた、こくそを詰める。
木地固め
 木地に生漆をぬる
布着せ
 椀の縁や底などに布を部分的に貼り付けて郷土をアップさせる
惣身つけ・惣身研ぎ
 木地と布との上に生漆と地の粉を混ぜたものを塗り、乾燥後砥石などで研ぐ。
下地づけ
 地の粉を生漆を混ぜたものを3回にわたって塗り、その度に砥石やサンドペーパーで研ぐ。3回の地塗りをそれぞれ一辺地づけ、二辺づけ、三辺づけという。
錆(さび)づけ
 砥の粉に生漆を混ぜた錆漆をつける。
地研ぎ
 水をつけながら砥石で研ぎ、表面を滑らかにする。
塗り
下塗
 精製した黒漆を塗り、その後研ぎ炭で滑らかに水研ぎをする。
中塗
 下塗の上に、もう一度精製した黒漆を塗り、水をつけた研ぎ炭で滑らかにする。
上塗
 透漆、黒漆、朱漆など好みの漆を塗る仕上げの塗り。無地の漆器はここで完成。
加飾
 蒔絵や沈食などの装飾をほどこす。
各地の特徴ある塗りはここでは割愛する。
漆器完成までには木地固めから下地づけ、研ぎ、塗(上・中・下)と数十回の工程を重ねた手間のかかるものである。漆器は熱を伝導せず、酸にも強く、食べ物の本来の味を楽しむことの出来る器となる。

 漆加工には蒔絵とか、螺鈿(らでん)加工の手の込んだ工芸品(食器にも)沢山あり、日本には立派な技術をもった人(塗師屋ともいう古来の呼称)も大勢いて見事なものがある。 この稿を記しながら、今更知った漆器の奥の深さ、広さ、暖かさ、そして器のもつ文化性の高さは、私共の筆の及ぶところではないということを実感した。

 それぞれの食物の持味に適した器に盛られた日本の伝統食は人々に愛され継承されて美しく楽しい食文化を守っていきたいものです。

【参考文献】
  • 日本の工芸6 漆工・・・樺W工社 S53年版 荒川浩和・音丸 敦・姫田忠義
  • すぐわかる うるし塗りの見わけ方・・・東京美術出版 <監修>中星寿克
  • ほんものの漆器・・・叶V潮社 どんぼの本 荒川浩和・山本英明・高森寛子 他
  • アジアのうるし日本の漆・・・鞄結桴o版 
  •  <監修>大西長利 <編集>フジタ ヴァンテ
  • ふるさとの伝統産薫
    1.北の自然に息づく伝統産業 北海道・東北地方@
    2.みちのくの技術をうけつぐ伝統産業 東北地方A
    5.きびしい風土にひらく伝統産業 中部地方@
    ・・・椛蝠ス出版社 1994年
  • 日本の伝統工芸(東日本編)・・・河出書房新社 小山 和 編 1993年
  • 塗師屋のたわごと・・・角川書店 角川Oneテーマ21 山本英明(塗師屋職人) 2002.1.10



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