2002/4月号

 中国の伝説上の三皇の一人に”神農皇帝”が居る。広辞苑によれば人身牛首。火徳を以って王たるが故に炎帝といい、民に耕作を教えたから神農氏という。また、初めて百草を甞めて医薬を作った。・・・・・とある。薬味を考える時、神農様を思い出す。
 神農は農業の神様として日本でも古くから農村で崇められていた。漢方の中では医食同源という考え方の中で各種の食物が何かの薬効があることが知られ、古代から伝承され実用化されていることは周知のことでまさしく医食同源である。想像的記述であるが、神農さんは各種の動植物・食物を使って厖大な人体実験を行い食物を上品(じょうぼん)・中品(ちゅうぼん)・下品(げぼん)の三種に分類し、365種の食べ物をバランスよく攝っていれば人は健康で長生きできると説いている。
 
 上品は長く攝り続けても害がないもの
 中品はある種の薬効があるもの
 下品は薬効があるが継続すると害になる

 例えば山葵は消毒作用があるとか。ネギは下毒と臭い消しに役立つとか。果実類は利尿作用、唐辛子は保温効果等々。食べ物は様々な医療効果がある。
 そばを食べる時、山葵のツ−ンとした辛み、唐辛子のピリッとした辛さと風味は何とも云えず、そばが一段と美味しく楽しい。 神農さんを想いつつ、自然の恵みに感謝したい。


 蛇 足

 神農伝承から中国では「本草綱目」等の書物が刊行されている。知識欲の充足になればと以下広辞苑よりの抜粋を紹介する。

『本草学』(ほんぞうがく)
 シナ古来の植物・薬物を研究し、兼ねて動物・鉱物をも研究した学問。主として医療に用いる薬物に関する学問。平安時代に我国に伝承し、江戸時代に最も盛んで、医家・漢学者で研究するものが多数輩出。草本学ともいう。


『本草綱目』(ほんぞうこうもく)
 本草学の研究書。明の季時珍の著。52巻、土・玉・石・草木・禽獣・虫魚など、1892種を釈名。
集解・気味・主治・脩治・発明・正誤付方の七項に至って解説したもの。1590(万暦18年・・・明の年号)年刊。


『本草綱目啓蒙』(ほんぞうこうもくけいもう)
 小野蘭山が本草綱目につき口授した本草記聞を、その孫、門人などが整理し出版した書。48巻。享和三年刊。


『本草図譜』(ほんぞうずふ)
 岩崎灌園の著。96巻。文政13年刊。草木二千余種を生態用途などにより分類・図説したもの。とある。1590年、万暦18年は中国・明の神宗の年、秀吉が小田原城攻めていた年である。享和3年は1803年で第十一代将軍、徳川家斎の時代。中国から伝わり、口述記したり、絵図鑑を作ったり、食文化や医薬の普及に役立ったことが推測出来る。



 このように食生活の改善発達には数多くの先人達の、記録をしよう、後世に伝えようという努力の積重ねがあったことが伺える。
 殊に江戸時代の発展は日本人の食生活を格段に向上していったと推測出来る。その中にそばがあり、山葵や唐辛子、鰹節があった。日本は山紫水明に富み、季節の植物群も豊富で食生活に多くのバラエティーを作り出している事を銘記したい。
 蛇足のついでに、蓼食う虫もすきずきの「蓼」はまんま草とか血止め草ともいい、秋になるとあずき色の実を穂状につける。すり傷などして、蓼の葉を血止め用として手足に張り付けた人もいるかと思うが、蕎麦もタデ科の一年生植物であり、血が出たときに葉っぱを張ると止まるのかしら。・・・何か文献記述や、伝承のことがあるのかとふと思う。どなたかご存知の方お知らせ下さい。

[参考文献] 広辞苑・重野哲寛氏”漢方を食べる”